翼と救済
Vocal by 鏡音リン
――それは、遠い遠い夏の、一対の翼と、空を飛ぶ勇気と、脆い感情のお話。――
翼を広げて飛んだ
あなたの翳がまだ近くにいるようで
両手に触れた温もりが
あなたの横顔を思い出してしまうから
あの日抱いた感情のすべてが渦になっていく
当たり前だった日々が少しずつ色褪せていく
あなたの面影がまだ胸の奥に残ってる
愛情を知らないまま僕は大人になったの
そんな想い出に振り回されて
(It’ll be disappeared…)
僕は踏み出せなくて
(You’re callin’ me…)
――コンクリートを蹴る音がした。――
翼を広げて飛んだ
あなたの翳がまだ近くにいるようで
両手に触れた温もりが
あなたの横顔を思い出してしまうから
――何があなたを死に突き動かしたの?――
ふと微かに馨る死の芳香(におい)
味わえないまま手を放した
遺されたあなたの脆い感情を
拭いきれなくて、すくいとれなくて、
このまま眠りたいのに!
――「ねえ、」
「私が死んだら、」
「きみは、」
「泣いてくれるの?」――
翼を広げて飛んだ
――鳥に憧れた少女が風に舞って飛んでいく、その姿はいやに美しかった。――
あなたの翳がまだ近くに居るようで
――その刹那、僕のこころが音を立てて崩れていくのがわかった。――
両手に触れた温もりが
――涙は出ない。
悲しみがわからない。
……何も、わからない。――
あなたの横顔を思い出してしまうから
――「ねえ、」
「死んだら救われるかな?」
「……好きだったよ。」――
翼と死(すくい)を求め
彼女はその足で大地を蹴った
伸ばした手は届かずに
あなたの泣顔(かお)がもう遠退いていくせいで
あなたの声がもう記憶から零れ落ちていく
――ねえ、あなたは今、どんな表情をしているかな?――
――好きだよ、――
――……愛している。――
――愛しているよ、またね。――